渡良瀬川を歩いて

 

 渡良瀬川は、足尾銅山鉱毒事件という日本で初めての公害事件が起きた河川である。上流の栃木県日光市足尾地区では江戸時代から銅が採掘され、明治維新後民間払い下げを受けた古河鉱業が近代化を進め日本最大の銅鉱山となった。銅は主要輸出品となり、国益優先の風潮であった時代である。鉱毒事件は鉱山掘削によるものではなく、精錬に伴う排煙、鉱毒ガス、鉱毒水などの有害物質が農業などの周辺環境に著しく影響を与えた。国会議員であった田中正造は被害農民たちのリーダーとなり、明治天皇への直訴を試みたりした。しかし日清・日露戦争のさなかであり弾圧が厳しく、政府は渡良瀬遊水地を建設して抗議活動拠点の谷中村を強制廃村にしている。現在もこの被害対策の砂防工事などが進められているが、東日本大震災時にも廃石堆積場から有害物質が流れ出すなどが起こっている。また草木ダムは多目的のひとつに鉱毒水防止という他に例を見ない目的があったが、銅山閉山によって現在は消えている。

 このような負の遺産を持った河川ではあるが、歩く限りは快適な河川と言える。渡良瀬遊水地から盛土堤防が続く範囲はサイクリングロードで、河川敷や堤内側の公園なども整備されている。堤防がなくなる上流になると渓谷の遊歩道や交通量の少ない道路があり、また何よりわたらせ渓谷鉄道がずっと平行しているのがよい。渡良瀬遊水地、風エネルギー広場、高津戸峡谷、水沼温泉、草木ダムなども変化を楽しませてくれる。